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遍路の旅は濃縮した人生

▲この曲は「一期一会」
作詞:土岐千尋/作曲:榎田竜路
編曲・演奏:真荷舟/ストリングスアレンジ:横谷 基/唄:土岐千尋

☆本編の中国での配信がスタートしました☆
http://v.youku.com/v_show/id_XMTg3MjQ5MDAw.html

遍路の旅は濃縮した人生

私は自分が四国で感じたそのものをできるだけ多くの人々に伝えられるといいなと思っています。でも同時に感性で強く感じたものを人々に伝える難しさをしみじみ感じています。どうやって硬い説教を捨てて、人に押し付けるような観光宣伝を避けて、四国そのもののように感性豊かで、そして人の心の深くまで感動を与え、自覚を喚起するのか。「四国」を伝えたいと思っている人がこれから考えるべきことです。

女優になったきっかけ

お芝居は小さい時から好きだったので、よく趣味で舞台や自主映画に出演していました。でもプロの女優になりたいと思い始めたのは、やはりチャン・イーモウ監督の映画「千里、単騎を走る」で高倉健さんに出会ったことがきっかけでした。
この映画に出演できたお蔭で、いわゆるプロの中のプロの仕事ぶりと、彼らの芸術に対する高い追求を拝見することができました。チャン・イーモウ監督の独特な演技指導や、高倉さんの素晴らしい演技や、どれもこれもが今まで趣味でやってきた自分に対して激しい成長を必要としました。その中でもっとも勇気をもらったのは、高倉健さんからの励ましの言葉でした。撮影の前日や休憩する時、健さんはよく私に「演技は心から」と教えてくださり、そして「あなたはきっといい女優になりますよ」と暖かく励ましてくださいました。健さんに心から感謝しています。健さんのそのありがたい一言がなかったら、私はまだ何の目標も持てなくて北京の町でぶらぶらしていたでしょう。
その映画が終わって二年後、私は日本に来て女優の仕事をはじめました。どんなに不調や困難の時があっても、いつも健さんの励ましの言葉を思い出しています。そしてどんな役に出会っても、いつも健さんから教わった「心から」の演技理念を肝に銘じて演じています。

お遍路ムービー撮影日記

これは撮影が終わって書いた日記です。

「遍路帰来」

京都に帰ってきてからずっと昏睡の状態だった。ぼんやりした時もなんだか歩いているような気がした。
たった10日間の撮影なのに、今までのどの撮影よりも疲れた。でも幸いに体の疲労だけだ。
行く前はリポーターの仕事と聞いたので、テレビの経験があまりない私はかなり緊張していた。
何の事前の相談もなかったのに、翌日の撮影が始まった瞬間から撮影組全員一致で映画本来のやり方で撮影し始めた。あの時はまったく衝動的発想だったけど、今考えれば、全員が「テレビだけじゃもったいない」と感じたからだと思う。 しかし映画の撮影方法で観光番組を撮るのは大変だった。シナリオもロケハンもアイディアも何もかもその場で作る、それからすべての可能性を何回も何回もじっくり撮る。早朝から夕方最後の日差しまで、監督組、撮影組と録音組が働き続けた。どんな時に呼ばれるか予想できないので、私もずっと付いていた。コーディネーションも突然だしスタッフも少ないので、プロデューサーの榎田さんと制作の方もずっと付いていた。

まったく空前絶後な撮影風景だ。

最初は自分がリポーターなのか役者なのか戸惑った。ついでに自分が芝居しているか本当に遍路をしているかさえも分からなくなった。 だってお遍路さんと同じように四国全土を巡礼し、お接待をしてもらうし、お遍路さんとして四国各地の皆様に励ましてもらったんだもの。街行くみんながテレビニュースで撮影のことを観たと、わざわざ握手しにきて私のことを「中国からきたお遍路さん」と呼び、自分の遍路経験を分かち合ってくれた。そして「まだまだ道が長いのでがんばってください」と、瞼が熱くなるまで親切に励ましてくれた。
僅か10日の撮影の中に、私は10回以上もお接待をしてもらった。お接待の内容は、みかん、自分で作った弁当、絵葉書、奉納札、お経、白衣、納経料、飲み物、手ぬぐい、飴、ミルク、宿泊、私の似顔絵……平均毎日一回以上!
そして巡礼の道で出会ったお遍路さん、みんなこの世界と人生を大事に思っている方ばかりで、短い時間だけど、一緒にお話ができて本当に教えられるところが多かった。
遍路の旅は濃縮した人生のように思える。いろんな人と出会って、温かい気持ちに励まれて助けられ、そして旅が長くても苦労をしても一人ぼっちでも前に前にとひたすら進む。
中国の作家張愛玲は「われわれの世代は、本の中で海を読み、本当の海を見たのはずっと後だ」と述べている。そして今、私達は本当の海を見た瞬間に、海は言葉で言いようがない存在であることにはじめて気がついたのだ。

撮影が終わった日、私はいつか必ず本当に徒歩で遍路をしようと自分に誓った。自分の目でしか海を見ようがないからだ。

四国の自然と旅で出会った人々を、私は心に収める。
旅で偶然に出会った「一言」を、ここに書きとめる。

「朝がきました 今日一日の自分に出会いました」
「輪廻転生の花が咲く りんねてんせいの花がちる」
「いいものはいいね すきなものはすき」
「前に歩いていくれた人のいたおかげで 今 こうしてぼくは歩いていられるのです」
「ごめんなさいを素直にいえる自分でありたい」
「ご縁あって咲くいのち ご縁あって散るいのち」

四国を旅して、女優としてのこれから

四国でのお遍路体験を経てこれから伝えたいこと

四国と触れたことで、自分が精神的に大きく成長したように感じます。何か今までずっと捜し求めてきたけど、よくわからない、とても貴重な目に見えない何かと出会った感じです。もちろん四国は自然も綺麗で食べ物もおいしい、観光には最適な所としみじみ感じました。でもそれだけではないんです。四国の官も民もみんなが大事に保護して残してきたお遍路文化が語りかけている、人間や自然との関係についての深い意義は全人類共通のものだと思います。しかも、今の時代にもっとも大切にすべきものだと思います。
私は自分が四国で感じたそのものをできるだけ多くの人々に伝えられるといいなと思っています。でも同時に感性で強く感じたものを人々に伝える難しさをしみじみと感じています。どうやって硬い説教を捨てて、人に押し付けるような観光宣伝を避けて、四国そのもののように感性が豊かで、そして人の心の深くまで感動を与え、自覚を喚起するのか。私はとても微力な人間で、ある文化を多くの人に伝えるためにできることはごく限られていると思います。でも私にできることなら、必ず四国のお遍路文化を、日本だけじゃなく、アジアそして全世界に紹介する事業に身を尽くしたいと思っています。

女優という仕事の今後について

女優の仕事の一番いいところは「出会い」だと思います。人との出会い、場所との出会い、そして役との出会いを通して、運命との出会い、自分との出会い、人生との出会いにつながっていく。この仕事をしている自分がとても幸せだと思います。

私は自分が大志を抱いている人間じゃないと思っています。将来についても一度も計画を立てたことがない。ただ目の前のことだけを大事にしたい、仕事も、生活も、今出会ったすべての瞬間を心こめて感じて大切にしたい。ただ、それだけです。

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運営者写真

キャンディ・ジャン(女優)

中国杭州出身。大学時代に学生演劇祭で最優秀女優賞に入賞したことで、浙江省テレビ局にスカウトされ、テレビ舞台劇に出演。大学卒業後、映画を志し北京電影学院修士課程入学。在学中、「単騎千里を走る」(チャン・イーモウ監督/2004年)で高倉健さんと共演した際、演技指導をいただき、励ましを受けてプロの女優を志す。主な出演作品は「しあわせのかおり」(三原光尋監督/2007年)他。

地域

日本

http://candyjane.com/